【書評】たまゆら あさのあつこ

山の持つ神秘性と人の持つ情動を見事に絡めさせた小説。

たまゆら (新潮文庫)

たまゆら (新潮文庫)


あさのあつこさんは、『バッテリー』の印象が強く、児童文学者と認識していたので、島清恋愛文学賞を受賞しているのは、やや意外な感じがしていました。

読み進めていくうちに、島清恋愛文学賞を受賞されたのが納得できました。男と女の恋愛における激しい思いを見事に描ききっています。

しかも、舞台は人里離れた山が中心。山が時に見せる畏ろしさが作品全体を貫いています。

本作品では、男と女、家族、殺人など理屈では解すことのできない出来事が山という特異な場面であるからか、納得してしまうような形で描かれています。

本書を読むと、山は人智を超えた存在であることが分かります。その様な山の存在が、人々が時に見せる不可解さを包み込んでいるかの様でした。

老女日向子は「誰も真実を知ることはできない。」と言いますが、その言葉も山の前では分けなく理解できます。

更に言及すると、山の捉え方が、西原恵理子さんの『パーマネント野ばら』を彷彿とさせました。

パーマネント野ばら (新潮文庫)

パーマネント野ばら (新潮文庫)

山には、世を捨てた人々が一定数生活しているという、前提が両作品に共通しています。

この前提の意味するところを、民俗学の素養の無い私が、十分に理解していないことは認識していますが、とても惹かれるトピックなので、今後も意識していこうと考えています。

☆世も人も山も理屈で割りきれないことを教えてくれました。☆