医療制度・問題の理解に役立つ本

今回は、医療制度や問題について理解するのに役立つ新書と小説をそれぞれ1冊ずつご紹介します。

まずは、新書から。
『医療の選択』 桐野高明  岩波新書

医療の選択 (岩波新書)

医療の選択 (岩波新書)

本書は、日本の医療制度の歴史を順序だてて具体的に論じています。現代の医療制度を考える上で必要となる視座を満遍なく提供してくれます。
また、アメリカの医療制度の問題点を論じながら、今後、日本がどのような医療制度を選択すべきかを、読者に問う形となっています。

著者は、国民皆保険制度と公定価格で誰もが平等に医療を受けることのできる日本の制度を概ね評価しています。
日本の医療制度の対極として、アメリカの医療制度を紹介し、医療を市場に委ねることは、格差を助長し、社会の分断を招くとの指摘を様々な例を引きながら論じています。

一方で、日本の医療制度の問題点についても論じています。高齢化が進行する中で、多くの人々が病後を生き続けなければならなくなっており、病院だけで治療が完結しない状況になりつつあります。しかし、日本の病床は急性期に対応するものが依然として高く、慢性的な患者に対応しきれていないといいます。これからは、病院完結型から地域完結型医療へ変化していかなければならないと著者は主張します。
ただ、日本の医療提供体制は、医療の費用は公的制御を受ける一方で、医療の提供は主として医師が私的に設立した病院や診療所が行うという特徴があるため、提供体制のあり方について公が関与するのは比較的難しいです。そのため、地域完結型医療へ転換していくためには、時間がかかると考えられます。

次に小説です。

アスクレピオスの愛人 (新潮文庫)

アスクレピオスの愛人 (新潮文庫)

WHOメディカルオフィサーとして、感染症撲滅の為、世界を飛び回る日本人女医、佐伯志帆子を主人公とする小説です。

本書は、佐伯志帆子と彼女の魅力に翻弄される男性たちとの恋愛小説として、読むことももちろんできますが、現代の医療に関わる緒課題について学ぶ教科書として活用することも十分にできます。

世界と日本の公衆衛生の現状、医学部の大学の設置に関する許認可の状況、不妊治療、美容外科の状況、小児科医の不足、医療訴訟の現状について、小説の中で触れられています。本書を一読するだけで、これらの問題について感覚的に理解することができます。

☆医療を分かりやすく理解するためには、おすすめ2冊です。☆