【書評】 断弦 有吉 佐和子

最近、出版業界では有吉佐和子ブームが起きているらしい。

有吉佐和子、没後30年ということで彼女の作品の復刊が相次いでいる。

そのブームにまんまと乗って、最近、有吉作品にはまっている。

新刊に、有吉佐和子の作品があるとつい手に取ってしまうのだ。

有吉佐和子と言えば、「恍惚の人」「複合汚染」などの作品が目につき、社会派のイメージが強かった。

しかし、最近相次いで復刊されている作品は有吉氏の初期の作品で恋愛や働く女性に代をとったもので、親しみやすい。いい意味で有吉氏に対するイメージが変わった。

今回、紹介する作品は有吉佐和子23歳の時の作品、「断弦」である。

 

 

断弦 (文春文庫)

断弦 (文春文庫)

 

 地唄の世界を舞台にした父親と娘そしてその二人を取り巻く人々の物語である。

盲目だが、地唄の名人である大検校菊沢寿久を父親に持つ一人娘の邦枝。

父親は自分の後継者として娘が幼いころから厳しい稽古を行ってきた。

娘はその父親の期待にこたえようと頑張ってきた。親子のきずなは、地唄の子弟関係と相俟って、通常以上に深い。

ただその二人は断絶の時を迎える。邦枝が日系アメリカ人の譲治と結婚するのだ。譲治は日本文化への造詣も深く、邦枝の結婚相手として申し分ない。

しかし、父親である寿久は、彼がアメリカ人であることなどを理由に結婚に大反対し、遂に娘を勘当する。

父と娘が素直に向き合えず、互いを思いつつも素直に表現することができないもどかしさが作品全体に溢れている。せつない気持ちにさせられる。

特に第2章地唄はラストシーンは涙なしでは読むことはできない。

また驚くべきことはこの作品が有吉氏が23歳の時に書かれたものだということ。

こんなに大人びた感性を持った23才っているのだろうか・・・。

単に親と子の物語というだけではなく、本書を通じて地唄の世界を垣間見ることができたのも大きな収穫だった。読むだけで、地唄について少し勉強になる、お得感もある。

今後も有吉作品は続々復刊される見込み。今後も有吉作品から目が離せない。